研究紀要

全国の国宝の約19%、重要文化財の約14%が京都市に集中しています。これら以外にも京都市の指定・登録文化財が多数あります。これらの文化財が価値付けされるに際しては基礎調査が行われています。また、文化財の保存及び研究を進める中で新たな発見も生まれています。これらの基礎調査の成果や新発見の情報について公開する目的で研究紀要を刊行します。

研究紀要の刊行には主に四つの目的があります。刊行物ではなく、デジタルデータとして配信しますので、利活用いただければ幸いです。

1 今後の文化財指定に必要な基礎調査に関する成果の公開
2 本市文化財保護行政の取組成果の公開
3 本市文化財から見た歴史・文化環境の復元
4 本市文化財のもつ魅力の発信

創刊にあたって

京都は、日本最大の「文化財都市」です。全国の国宝の約19%、重要文化財の約14%と、まさに集中して存在しています。むろんこれら以外に、指定・登録文化財も多数あります。文化財都市という言い方は、けっして大げさではありません。これらの文化財がどのような価値と意味を持つのかを確かめるために詳細な調査や研究が行なわれますが、この『研究紀要』ではその成果と、あわせて調査・研究の過程で新たに発見された文化財に関するさまざまな情報を公開いたします。
京都市には、指定・登録された文化財のほかに、たくさんの文化財があることも見逃すことはできません。市井の片すみの小さな石仏、街なかの袋小路に残ったふつうの町家、それらは今の指定・登録の基準からするとたしかにその対象にはならないでしょう。しかしそれらもまた市民の暮らしのなかに生きる、欠かすことのできない文化財なのです。
さらに申せば、こうした文化財の背後にある長く深い京都の歴史が、これまた見逃されてはならないと思います。京都市にある文化財は、京都という土地に張りついた文化財が大多数なのでして、そしてそれはその土地に営まれてきた歴史と切り離して考えることはできません。歴史を生きた京都市民がそれらの文化財を生みだしてきたのでして、単なるモノとして調査・研究するだけでは、じゅうぶんとは言えないのです。市民とともに文化財はあったし、またこれからもある、ということを忘れないようにしたいと思います。
いささか固くなりましたが、京都市文化財保護課『研究紀要』創刊号デジタルデータを配信するにあたって、ご挨拶の言葉といたします。

文化財保護審議会 元会長 井上 満郎